【特集】職人の世界に触れる。vol.2 パスタ打ち職人とビール醸造者のこだわり

パスタ打ち職人|Pasta Possibilita〈パスタポッシビリタ〉・菊池翔さん

 イタリアでは、パスタ打ちの職人が多数おり、市場の軒先で生パスタが売られているのはもちろん、各家庭でも当たり前のように生パスタが作られている。そんな生パスタを、より身近な存在として日常の中に取り入れてほしいという想いで開業された、生パスタを販売する専門店「Pasta Possibilita〈パスタポッシビリタ〉」。職人の菊池さんは、はじめは生パスタが美味しいカフェの開業を目指していたものの、店の運営をしながらパスタづくりを全力で極めることは難しいと判断し、日本では数少ない「パスタ打ち職人」として店を出すことを決意した。

 パスタづくりにおいて、「水加減」が出来栄えの80%を占めるという。「とにかく湿気が敵で…生地をこねている間にも、空気中の湿気でどんどん加水されてしまうため、完全に同じものは二度と作れないですね。工房内にも除湿器を置き、常に湿度を調整しています。」また、小麦粉の種類や状態によっても出来上がりが変わるため、狙った食感にするために小麦の種類を変えたり、複数の種類をかけ合わせたりして作ってゆく。生パスタ、と聞くと、ついモチモチの平打ちを想像しがちだが、実は様々な食感の生パスタがある。乾麺のようにパツパツと歯切れの良いものや、口に入れると「モチモチ」よりも少し水加減が少ない「ふわっ」とした食感のものなど。それぞれ絶妙な水加減や、成型後に少しだけ水分を飛ばす「セミドライ」作業によって作り出された食感だ。そこに小麦本来の香り、甘み、旨味が加わり、「生パスタ」が完成する。

店頭販売分のパスタは、美味しさが劣化しないように冷凍での販売。通常のパスタのようにそのままお湯で茹でるだけで、お家でのパスタづくりが1ランクアップしそう。お店の厨房は菓子製造業許可を取得しており、パン・お菓子作りの工房としてレンタルもしている。工房を貸している方々のお菓子たちも店頭に。

 ひと種類ずつこだわって作られていくパスタポッシビリタのパスタたちは、ロングパスタやショートパスタ、ラザニア等に使用できるシートなど、いつも全10種類ほどが店頭に並んで販売されている。それぞれ、合うソースや食材が違うため、購入の際にはよくお客さんの相談に乗っているのだそう。「特にショートパスタは、それぞれの溝のつけ方や形でソースとのからみ方が違うため、得意・不得意があります。オイルやクリームなど何ベースのソースが良いのか、使う食材は?など、どんな食べ方をしたいかをお聞きして、おすすめをご紹介しています。日本人は特にショートパスタになじみの無い方が多いと思うので、ぜひ試してみていただきたいですね。」と語る菊池さん。生パスタの魅力、小麦本来の美味しさを広めるため、今日も腕によりをかけてパスタを作る。

Pasta Possibilita 〈パスタポッシビリタ〉

仙台市青葉区堤町3-12-16 高橋ビル1F

TEL022-725-8319


パスタポッシビリタの生パスタが食べられるお店

osteria bambi〈オステリア バンビ〉/ 仙台市青葉区国分町3-8-17 / TEL.022-221-0018
野菜屋カフェヴェルデ / 仙台市青葉区錦ケ丘1-3-1 ヒルサイドモール1F / TEL.022-724-7422 ほか

ビール醸造者|穀町ビール・今野高広さん

 仙台市・穀町でクラフトビールを作る小さな醸造所、「穀町ビール」。醸造者の今野さんがビールづくりに挑戦しだしたのは、なんと40代になってから。震災後に仙台のために何ができるのかと考える中、クラフトビールブームが起こり、仙台にはマイクロブルワリーが無いことに気づく。毎月東京に通いビール造りの講座を受けながら、荒町の日本酒蔵・森民酒造本家で4年間修業。穀町ビールの立ち上げにこぎつけた。

 穀町ビールの立ち上げ前、仕事の関係で毎年ベルギーに行く機会があったという今野さん。現地で飲んだ、アルコール度数高め・個性的な味のベルギービールに魅了され、穀町ビールの看板商品のヒントとすることに決めたのだそう。そんな想いから生まれた「穀町エール10」の特徴は、アルコール度数の高さ、控えめなホップの苦みと炭酸。麦の甘み・旨味が感じやすく、ハチミツがアクセントとなっている。「日本酒とか赤ワインみたいな、どっしりとした味わいのビール、と言えるかもしれません。飲むときはあまりキンキンに冷やさずに、8~15℃くらいにしていただくと、香りが出て本来の味を味わいやすいです。炭酸ソーダと1対1で割ったり、甘みがあるので冷凍庫に入れてシャーベットにしたりしても美味しいですよ。飲み方はウイスキーに近いものもありますね。」

こだわりのビールたち。暑い日に飲みやすい「穀町パナシェ 5」、日本酒好きな人におすすめな「穀町エール 10」、ベルギー酵母を使用した「穀町エール12」。作業は1人で黙々と。「もともとものづくりが好きだったのも、理科の教員免許を持っているので分析にも慣れているのも、すべて自分のスキルが役に立っているなと感じます。」

 ビールの仕込みから瓶づめ、発送、ラベルデザインまで、基本的には今野さん1人でやるというから驚き。「いかに清潔に保つかということで、細かく使う道具を洗浄するので、実は洗っている時間が1番長いのかもしれません。これが実はとても大変ですね。」と笑いながら話す今野さん。ちなみに1番作業中で手間がかかるのは、つきっきりですべて温度管理が手作業という、麦を大鍋で煮て糖化させる作業。発酵タンクの温度管理などは機械も使いつつ進めていくのだそう。また、蔵出しの造りたてビールを楽しめるブルーパブ、「ビア兄〈ビアニーニ〉」も醸造所に併設しており、「目の前で飲んで『美味しい!』と言ってもらえる瞬間が、1番のやりがいです」と語る。

 今後は、今は輸入でまかなっている原材料を、地元・宮城県で作られたものを使っていけたらと考えているとのこと。その取り組みの先駆けとして、震災後から東松島で栽培されている二条大麦「希望の大麦」を100%使用した、「の・ビール」を数量限定で販売(現在は販売終了)。「穀町ビールを仙台の名物にできたら。もっと名前を広めていきたいです。」今野さんのビールづくりの挑戦は続く。

穀町ビール

仙台市若林区石名坂34

TEL022-223-5860


「穀町ビール」が飲めるお店

Wine Bar Haut-Numa〈ワインバーオオヌマ〉 / 仙台市青葉区一番町3-4-3 INDEX BUILDING B2F / TEL.022-226-7882
アナログガーデン / 仙台市青葉区国分町2-1-12 瀬戸勝ビル1F / TE>022-721-2688 ほか

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