「ほしい!」を見つける ずっと愛せる東北。vol.3-4

【4th day】全てが1点物。職人技で作り出される樺細工たち
磨くことで見えてくる
色艶が生まれる職人技

樺細工に使用される山桜の樹皮は、元々はグレーがかった凹凸のある質感が特徴です。ザラザラとしていて、採取した段階ではあの樺細工の独特な模様やツヤ感は分かりません。樺細工職人の熟練の技で樹皮を研磨することで、美しい模様や色艶が表れてくるのです。

「皮1枚1枚、厚みや模様、硬さなど個性が異なるので、それを見極めながら研磨していきます」と教えてくださったのは、樺細工伝統工芸士の経徳明夫さん。今年73歳を迎える経徳さんは高校卒業後18歳から職人の道に進み技を磨き続けてきました。

父・祖父ともに樺細工職人として活躍され、樺細工がずっと身近にあったという経徳さん。自身も伝統を守りながらも独自の世界観で作品を作り続け、2013年には「現代の名工」の表彰を受けています。「皮の表情を見て、模様を生かすような作りにしたり研磨する度合いを決めていきます。その皮の1番いいところを見極めます」と話します。「皮の1枚1枚、同じものは1つもない。扱いが均等ではないから、難しくもあるけど完成形をイメージしながら作るのが楽しいですね」と、迷いなく手を動かし続ける姿に、職人の技と知識、そして経験全てが1つ1つの作品、1つ1つの工程にギュッと凝縮されているのが伝わってきます。

経徳さんは現在、自身の工房と角館の武家屋敷通りにある角館樺細工伝承館で活動しています。角館樺細工伝承館は、入り口の大きなしだれ桜が目印の建物でアート&クラフト 香月から歩いて1分ほどの距離にあります。ここでは樺細工などの工芸品から歴史の資料などを展示している他、日替わりで10名による樺細工伝統工芸士による製作実演も行われています。

職人の細やかな技を間近で見ることができ、普段見ることのできないシーンにワクワクします。また、その職人が手がけた作品の販売もあり、運命の1つと出会えるチャンスも。館内では物産館や喫茶室も併設されているので、ゆっくりと観覧を楽しむことができるのも嬉しいポイントです。

山桜の樹皮を薄く削り、コテで木地に張りつけてつくられる樺細工は全国でも角館だけにその技術が引き継がれています。そして、世界でも類を見ない樹皮工芸として人気が高まっているのです。樺細工は山桜の樹皮でできていると言っても、天然の素材であることからさらに種類は10数種類に分けられ、あめ皮・ひび皮・ちらし皮など、光沢がまろやかな種類、表面にちりめん状の模様のある種類、光の入り具合で表面が銀色に光る種類など、採取する木の状態や生きた年月によっても細かく分かれます。そのため、作品にも1つとして同じものはありません。

樺細工ができるまで
茶筒の製造工程

滑らかで丈夫、そして乾燥・湿気を防ぐという特質から、茶筒に適した素材として愛されている樺細工。その出来上がるまでの工程を見ていきたいと思います。

製作には木槌、カンナ、胴突きノコギリ、罫引、綴目、トクサ板など、様々な道具が使われます。大きく11に分けられる工程を1つずつ丁寧に仕上げ、作品が生まれるのです。

●1. 樺削り
多種多様な個性を持つ山桜の皮をつくるモノの大きさに合わせて裁断。水を湿らせて熱したコテをあてて蒸し、しごいて柔らかくします。表面を幅広の包丁で削り色を均等にし光沢を出します。
●2. ニカワ塗り
細工がしやすいよう、薄く削った後はニカワを塗って乾かしておきます。
●3. 仕込み「仕込みの段取り」
経木にニカワを塗って乾燥させたのち木型に巻きつけ、約200度に温めたコテを押しつけ円筒状にし、3枚重ねて原型をつくります。
●4. 仕込み「内樺入れ」
3でつくった経木の原型の内側にニカワを塗り、貼りつけていきます。
●5. 仕込み「口樺作り」
茶筒の蓋を取ったときに見える胴体の口部分に使う口樺。ニカワ塗りをした皮をちょうど良い大きさに裁断し、原型より一回り小さな経木に巻きつけます。
●6. 仕込み「口樺着せ」
5を4の内側に貼りつけます。
●7. 貼り付け「蓋と芯の切り離し」
蓋と胴体に分けるため、小刀で切り離します。

●8. 貼り付け「胴貼り」
胴体部分にニカワを塗り、コテを使って巻きつけます。コテを水につけて樺が焼けない温度を判断しながら、しわが残らないよう何度も押し付けて経木になじませます。ニカワとコテの熱加減に熟練の技が必要とされます。
●9. 貼り付け「節埋め」
樺の節が目立つ部分に、コテで樺を埋めこみます。

●10. 貼り付け「天盛り」
茶筒の天と底を加工します。小刀で削ってカンナをかけ、縁をならします。胴体と同様にかわとコテを使って皮を貼りつけます。天が終わったら、底の部分も同様に加工します。
●11. 仕上げ
樺の表面に光沢を出すための磨きの工程。サンドペーパーを6種類使い分け徐々に細かい目のものに持ち替え研磨し、との粉で磨き最後に鬢つけ油で仕上げます。

熟練の技によって生まれる樺細工たちは、上品でありながら自然素材の生命力を感じる唯一無二の作品に仕上がります。そんな樺細工に出会い、暮らしに「とっておき」をお迎えしてみてはいかがでしょうか。

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角館樺細工伝承館
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秋田県仙北市角館町表町下丁10-1

●アクセス/JR角館駅より徒歩20分

●営業時間/4月〜11月9:00〜17:00、12月〜3月9:00〜1630
※最終入館は閉館の30分前まで

定休日/年末年始

●入館料/大人(高校生以上)300円、小人(小・中学生)150円、6歳未満は無料
※角館樺細工伝承館・角館町平福記念美術館・新潮社記念文学館3館共通観覧券(高校生以上750円、小・中学生360円、6歳未満無料)

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