「ほしい!」を見つける ずっと愛せる東北。vol.1-1

「ほしい!」が見つかるずっと愛せる東北。とは

東北の「ホンモノ、逸品」を題材にした特集。
商品やお店、職人の背景やストーリー、想いを中心に取材し、
こだわりのモノとコトを紹介。

ホンモノはずっと長く使えて、愛せるもの。
想いはよりモノを輝かせてくれるもの。
私たちの東北のキラキラをもっと知って、もっと好きになってほしい。
そして、ずっと手元に置いておきたい愛せるモノを見つけてほしい。
“ずっと愛せる東北。”はそんな想いを込めた特集です。

vol.1 雄勝硯職人 樋口昭一さん
600年の伝統と技が暮らしを彩る、伝統工芸品の新しい価値

艶のある黒色と、しっとりと手に馴染む質感の岩肌が魅力の雄勝石。2億3千万年前年の記憶を持つ雄勝石を、約600年の伝統と職人の技で仕上げる作品の数々。震災を経て再び雄勝町の地で作品作りを行う樋口昭和堂硯舗 雄勝硯職人の樋口昭一さんと、雄勝石を活かした製品展開・新しい価値を見つめ直している、雄勝硯生産販売協同組合 事務局長の千葉隆志さんにお話をお聞きしました。

写真・文:kumiki 小野 千怜

Contents

【1st day】国指定伝統工芸品 雄勝石の特徴と、その歴史
【2nd day】震災を経てなお変わらないもの
【3rd day】雄勝硯職人・樋口さんの想い、雄勝硯の制作過程、制作のこだわり
【4th day】職人技で生まれた逸品と雄勝硯・雄勝石の進化の可能性

【1st day】国指定伝統工芸品 雄勝石の特徴と、その歴史
歴史を辿る 雄勝町と雄勝石の関係

豊かな海を眼前に臨む石巻市雄勝町は、南三陸金華山国定公園内にある水産業と硯の町です。国内の硯の90%を供給する硯の産地であり、生産量日本一の硯の町として知られています。特産品の雄勝硯がこの地で生産されていたとされる歴史は古く、約600年前の室町時代にまで遡ることができます。

その後、仙台藩祖伊達政宗公が牡鹿半島へ鹿狩りに出むいた際に、硯二面を献上したところいたく賞賛され褒美を賜ったと伝えられています。二代忠宗公も雄勝石の性質と雄勝硯の匠の技に感服し、硯師を伊達家お抱えとしたという歴史もあるそう。

現在は仮設工場の近くにある硯石を産出する山を、藩の「御留山」として一般の採掘を許さなかったと伝わるほど。それだけお気に入りであったことが伝わってきます。以来、長きにわたり雄勝硯は名硯として賞美されてきました。

歴史の偉人たちもとりこにするほど、きめ細やかな岩肌と、艶のある色合いが美しく機能的な雄勝石の加工品ですが、海のすぐそばということもあり、東日本大震災の影響で工場や採掘場、そして職人たちが壊滅的被害を受けました。現在は多くの人々の協力のもと生産を再開し、仮設の生産工場で活動を続けています。日本全土的にも原料となる石が採れなくなるなど、未だ厳しい環境下にある中にありながらも、伝統的な雄勝硯の他、ライフスタイルに合わせたクラフト製品の製造や、テーブルウエアの開発にも力を入れています。

重厚な存在感を放ちながらも
どこかフラットな雰囲気を醸し出す、雄勝石の特徴

雄勝石は玄昌石とも呼ばれ、宮城県石巻市雄勝町産のものを指します。黒を意味する「玄」と、美しいという意味の「昌」がこの名の由来となりました。「雄勝石はおよそ2億3千万年前にできた、黒色硬質粘板岩(玄昌石)です。口伝では、雄勝硯の歴史は約600年前の室町時代のころとされ、東日本大震災前には年間150万枚ほど産出されていました」と、雄勝硯生産販売協同組合 事務局長の千葉隆志さん。震災による打撃を一歩一歩のり超え、伝統的な雄勝硯や暮らしに寄り添う器など様々な製品を展開しています。「1つひとつを手作業で作り上げられる雄勝石を加工した製品は、国内外からも食器として高い評価をいただいております」と話します。そんな千葉さんも、雄勝石に出会い、のちにその魅力に惹き付けられた1人です。

雄勝石は純黒色で圧縮・曲げに強く、低い給水率と科学的作用や長い年月変質しない性質を持っています。保温・保冷にも優れており、石皿としての機能性も高いのが特徴です。「地中深くから掘り出された石の肌はきめ細かく、硯の他、明治の初めからノートの代用品であった石盤として利用されてきました。国内で初めての屋根材として天然スレートが生産されたのも、ここ雄勝町ですね」と話します。

雄勝石は長い年月をかけ形作られた性質から決まった方向へ薄く割れる特性があり、これは雄勝町で産出される石ならではの特徴だそう。この特性を活かし、古くから硯の原料や、近代では食卓を彩る器の他、屋根などのスレート材として暮らしにとけ込み、親しまれてきました。

また、経年変化に強いという特性を活かし、復元されたJR東京駅舎丸の内駅舎や北海道庁旧庁舎(赤レンガ庁舎)などの洋風建築屋根材としても幅広く用いられています。JR東京駅舎丸の内駅舎のドーム型の屋根には、津波で流された雄勝石約4万枚が使用されているそう。重厚ながらも、和風にも洋風にもそっと溶け込むその優雅な姿は、見る人の心をとらえて離しません。

(写真:Adobe stockより)
伝統と技術を守り繋げる 新しい価値の創出

昭和59年に設立された雄勝硯生産販売協同組合では、震災後壊滅的な打撃を受けた雄勝硯産地と職人の技再生・技術の伝承のため、組合独自の仮設生産工場を平成26年に立ち上げ、復旧・復興を目標に取り組んでいます。店内では雄勝硯や石皿をはじめとする雄勝石工芸品の販売も行なっています。

▶︎ 次回公開の【2nd day】では、「震災を経てなお変わらないもの」をお届けします。

雄勝硯生産販売協同組合
Tel.0225-57-2632

宮城県石巻市雄勝町上雄勝2丁目25

●営業時間/9:00〜17:00

●定休日/毎週火曜

●ホームページ/http://ogatsu-suzuri.jp

●ネットショップ/https://ogatsusuzuri.thebase.in

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