臨済宗 妙心寺派 円通院副住職 天野 晴華さん
宮城が誇る観光名所、松島に在る円通院の副住職。祖父の代から円通院にて僧侶としての生活・生き方をたどり、天野さん自身も僧侶の道を歩み、現在は副住職として円通院での職務にあたるかたわら、「松島紅葉ライトアップ」を発案・実施し松島の観光事業にも力を注いでいる。
モヤモヤした気持ちや悩みのアレコレ、リセットできるかも。
企画・編集/仙台ぱど ルチカ編集部
自分をどうするか決めるのは自分自身
編集部(以下編)円通院という『お寺の子ども』として生まれ、物心ついた時には「お寺を継ぐ」ことを意識していたかと思うのですが、すんなり受け入れられるものでしたか?
天野さん(以下天)すんなりは受け入れられなかったですね!高校生の時は反発もしました。ですが、一人っ子なので私しか継ぐ人がいないとなると、そうも言っていられませんでした。
編京都の大学を卒業された後は、修行の道に進まれたのですよね。
天そうです。「僧侶」というと一般的に男性のイメージがありますが、女性もおります。その場合、「尼僧」と呼ばれます。私が大学3年生の時に女性が修行を行うための僧堂「天衣僧堂(※1)」が出来たのも大きかったです。
編そこではどのような修行を?
天筆舌に尽くしがたいのですが…とにかくきつかったです。主に座禅や禅問答、托鉢、境内の掃除や農作物を育てるのですが、朝は3時に起床し、お勤めが始まります。冷暖房があるわけではないので…岐阜は盆地で夏はとにかく暑いし、季節問わず常に素足で過ごすので、冬場は霜焼で歩くのも辛かったですね。
編!!
天食事は全て精進料理。肉・魚・卵は食べられません。昔の方とは違い、修行前までは皆普通に肉や魚を食べていたので、反動が如実に体に現れます。脚気(※2)になる人もいましたね。とにかく毎日ひもじい(苦笑)。私がいた時代は修行僧が15名程おりました。修行道場には厳しい上下関係があり、食事も先輩から取り分けられていくんです。下っ端になると量が全然残っていない事もしばしばで…あまりに空腹が続くので、修行道場において指導役にあたる老師に「お米欲しいです!」と直談判したんです。そうしたらお米を頂いたのですが、それが7、8年前のお米で…昔の任侠映画とかに出てくる「臭い飯」の意味が分かりました。それでも、有難く頂戴しました。
編過酷ですね…。
天女性専門の道場といえど、メンバーが女性なだけで内容は男性と同じです。力仕事も行います。また、修行時は修行僧用の僧衣を身に着けるのですが、季節によって素材は異なるものの、夏場は茹ゆだるように暑く、冬場は反対に芯から凍える寒さでした。
編そのような過酷極まる環境で、病気に罹る方もいたのですか?
天もちろんおりました。ただ、病気で休むと仲間に迷惑をかけてしまうので、毎日気を張ってました。
編すごいですね…そこまで行き着くと肉体の問題より、精神力が試されますね。
天そうですね。臨済宗は禅宗の一派ですが、禅宗の教えとして「自分と向き合い 自分を見つめる」、つまり自分をどうするか決めるのは自分自身、という教えがあります。その礎を修行で築いたと思います。

円通院での職務を通じて
編修業を終えた後は帰仙し、円通院副住職としての仕事をスタートさせ、2004年には円通院のライトアップをはじめたのですね。
天そうですね、ライトアップも今年で15年になります。
編昔と今とで変わったことはありますか?
天色々変わりましたね。ライトアップを始めた当初は今ほど人が集まることもなく、年配のお客様を中心に、アットホームな雰囲気でした。全くの素人が手探りで始めた為、初期は手作り感が強かったと思います。
編今と比べて静かなライトアップだったと。
天ええ、以前は出店もなかったので、「静寂」という言葉が似あうイベントでした。
編段々と人気や知名度が高まり、お客さまが増えてきたのですね。
天はい、おかげさまで。SNSの普及で当院の知名度が広がり、今までお寺に馴染みのなかった方にも気軽にお越し頂けるようなりました。ただその一方で目の前にある紅葉を楽しむというより、写真を撮る事に夢中になる方がかなり増えましたね。当院としては記録に残すより、その場でしか感じることのできない瞬間をお楽しみ頂き、記憶に残して欲しいと思っています。
編ライトアップの愉しみ方が変わってきたのでしょうか。
天そうかもしれません。一部のモラルを守らない方が急激に増え、もう止めようと思ったこともあります。そのような時に「震災前に円通院の池を家族で見に来ていたので、また来ました」というお客さまの声や、「松島が活性化するなら」と協力してくださる地元の方の声を聴くと、「ああ、続ける意味はまだあるんだ」と奮起しますね。
編なるほど。ライトアップ以外では今後実施してみたいイベントはありますか?
天夏場に境内で肝試しをしてみたいですね!
編!!ホンモノが出ますね、きっと!
天実際、私も幼かった頃は自分の家なのに怖かったですよ。それとお寺で肝試しをやるっていうギャップも面白いかと思うんですよね。デジタルと融合させての展開や、生身の人をオバケにして追いかけさせてみたり…色々課題はありそうですが、チャンスがあれば実現させたいです。
編ライトアップと並んで円通院で有名な「数珠作り体験」、こちらも天野さんがお客さまとやり取りされることもあるのですね。
天はい、そうです。女性が大半ですが、1人で来る方も、グループでいらっしゃる方も、様々です。
編「以前は〇〇の意味合いを持つ石を選ぶ方が多かったが、今は□□の石を選ぶ方が多い」などはあるのでしょうか?
天うーん、何か一つの石に偏る、ということはあまりないですね。数珠を選ぶ時って、皆「無心」だと思うのです。選んでいる時に「今日の夕飯何にしよう」とか「明日あの仕事やらなきゃ」とか、思わないですよね。無心で選ぶからこそ、自分の内面が石に出てくるのだと思います。
編なるほど。言われてみると確かにそうですね。
天純粋に自分のことだけを考え無心になれる環境で石を選ぶことは、今の自分を知り、調えるということです。数珠を渡す相手がいる場合も同様です。「この人にはこの石が似合うかな」という思いで選び作った数珠は、相手への純粋な想いが表れています。
編自分や、自分が想う相手への感情がそのまま表れるということですね。
天そうですね。お選び頂いた石の説明を行うと、「当たっている。」という声を多く頂戴します。ストレス緩和を意味する石があるのですが、その石を選んだ方が、「最近忙しかったからな。」などと仰ったときには「お庭を見て、少し心を落ち着かせてみませんか」と声をおかけすることもあります。自分の心と向き合い、整理するのも自分自身。当院でのひと時が自己と向き合い心を調えるご縁となれば、と願っています。
人間関係こそ一番の修行!
編ルチカ読者は、恋に仕事に将来に結婚…悩み多き方が沢山いらっしゃいます。「彼氏と結婚したいのだけれど彼氏が煮え切らない」という悩みを頂きました。
天うーん…ご本人に「『結婚』という言葉を彼氏から引き出せない理由」があるのではないでしょうか?
編気持ちがいいほどのバッサリ!
天彼氏の気持ちを変える、ということは止めるべきだし出来ない、と思うんですね。方法としては3つ。
①自分をとことん磨く
②(自分を変えたくなければ)そのまま過ごす
③別れる
編その心は?
天①はそのままの意味です。まずは、自分が変わる事じゃないかな…「この人とずっと一緒に過ごしたい」と思ってもらえるように努力をする。②は結果的にどうなるかは分からない。ですが、何も状況が変わらなくても彼氏のせいにしないように。③は「自分の人生を費やしてもいい人?」と自問自答した結果、この選択肢を選ぶのもアリだと思います。
編どの選択肢も深いですね…。
天あとは、「結婚しなきゃ」と焦る方って多いと思うんです。でも、焦る=相手とご縁がない、とも考えられます。結婚は焦ってするものでもないですし、焦って強引に話を進めたところでいい結果になるかは…まずは自分を見つめ直し、その上で結論を出すべきだと思いますね。
編どうするか決めるのも選択するのも、その結果も自分次第、と。
天そうです。あなたを救えるのはあなたしかいないのですから。恋愛に限らず、仕事も同じです。
編ルチカ読者は仕事で悩んでいる方も多いです。一番は職場の人間関係でしょうか。
天人間関係!人間関係こそが、一番の修行でした。
編!!確かに女性だけでの過酷な修行、色々と…大変そうです。
天同期が私含めて5名。修行道場では、年齢や経験は関係なく、先に入門した者の序列が上になります。私は5名のうち最年少でありながら一番先に入門したので、グループリーダーを任されました。入門した日が数日しか違わなくても他の同期がミスをしたときには、「お前の指導が悪いんだ」と先輩に叱られました。
編ほかの4名は皆年上だったのですか?
天はい。40代1名、50代1名、60代2名と当時22歳の私からすると、親より年上の者もいました。様々な性格や価値観を持つ人間同士が共同生活を過ごす事により、様々な軋轢が生じます。それを咀嚼して消化していく事が修行の第一歩なんだと実感しました。
編想像するとすごい環境ですね…でも、職場でもあり得る環境ではありますね。辞令で急に自分の上司が年下になったり、部下が年上になったり。
天そう!その通りです。でもそのような中で修行を行っていかなければならない、仕事に打ち込まなければいけない。ただ、人間関係って大変ですが、助けてくれるのも人間関係だと思うのです。「こんな修行から逃げ出してやる!」って思った時に止めてくれたのも一緒に修行に打ち込んだ仲間でした。
編救ってくれるのも人間関係、と。
天そう思いますね。修行を乗り越えたメンバーは今では戦友だと思っています。
編うーん。深い…。
天生きていく上で、嫌になることや我慢ならないことってあると思うんです。でも嫌なことは絶対、自分の血肉になります。すぐ投げ出さず、まずは我慢してやってみる。我慢の限界を決めるのも自分自身!その上でどうしてもしんどいなら、道を変えればいいのです。
編天野さんが仰ると説得力がすごいです。
天今だからこそ言えることなんですけどね。若い時はそうは思えなかった。でも年を重ねていくにつれ「責任」が付いて回るじゃないですか。
編「責任」からは逃れられないですものね。
天「責任」がない(あるいは軽い)若い時の下積みは大切だと思います。その下積みがあったから今がある。若いうち、年を重ねてから、それぞれの時期の自分自身に真摯に向き合っていきましょう。年を重ねると「責任」だったり、部下の指導だったり、結果を出す為に何をすべきかとか、色々ありますから…。
編(激しく同感)その通りだと思います!今日は、とっても勉強になりました。ありがとうございました。
天ありがとうございました!


体験料1,000円~(数珠の材質によって異なる)
体験時間9:00~15:00(12月~3月)
所要時間約40分 予約不要/無休
拝観料/大人300円 ※数珠作り体験の方は拝観料無料
拝観時間/4月~10月下旬 8:30~17:00、
10月下旬~11月 8:30~16:30、12月~3月 9:00~16:00
年中無休