「ほしい!」を見つける ずっと愛せる東北。vol.1 – 3

【3rd day】雄勝硯職人・樋口さんの想い、雄勝硯の制作過程、制作のこだわり
素材美を活かす600年の伝統と技 雄勝硯職人・樋口さんの想い

雄勝石の特性を活かし、機能性に特化したシンプルな硯が特徴の雄勝硯。繊細な艶ときめの細やかな岩肌が、墨を磨るのに丁度よく馴染みます。そんな雄勝硯を手がけて40年。樋口昭和堂硯舗 雄勝硯職人の樋口昭一さんの、硯作りにまつわる想いをお聞きしました。

お父様が雄勝硯職人だったという樋口さんは、硯や雄勝石が身近な環境で育ったといいます。東京で紙の輸入を扱う会社に勤めたのち、25歳頃に地元石巻に戻り雄勝硯職人として正式に修行を始め工房を引き継ぎました。現在では雄勝町で硯を彫る唯一の職人です。震災により、現在は仙台市泉区の自宅から週2〜3日この仮設工房に通い、精力的に製品作りを行なっています。

「父親が雄勝硯職人だったから、中学生時代には遊び感覚で石を彫ったりしていたっけ」と、雄勝硯職人となるきっかけが子ども時代にあったと話します。昔からスキーが大好きで、あちこち巡って楽しんでいたというアクティブな樋口さん。雄勝硯・石と共に歩んできた40年を振り返り、「1日1日雄勝硯を作り続けて、気付いたら40年が経っていた。年齢?今は65歳ぐらい。だいたいそんなもん」と笑います。そんな樋口さんに雄勝硯・石の魅力をお聞きしました。

1つひとつ個性が輝くから面白い 雄勝石の魅力

1つとして同じものがない天然の原石から彫り上げる雄勝硯や雄勝石を使用したクラフト製品の数々。硬さも形状も異なるからこそ、面白く魅力的だと話します。「雄勝石(玄昌石)は2億3千万年前の泥が長い時間をかけ硬くなったものなんです」と樋口さん。「元々この地域は大きな湖だったらしくて。泥が酸欠状態になると黒く変化して、この状態の石になります。石は海の底にも無尽蔵にあると言われていますが、硯やスレート材になれる石はここ雄勝町で採れる雄勝石だけなんですね」。震災後、環境の変化に伴い採石が制限されたことで、雄勝石はより貴重な存在となっています。

「石の性質として、不純物が入っていないものだと3mmから4mmで薄く割れるけど、ピーンと真っ直ぐには割れない。岩肌がゆるゆると波打つような感じ。真っ平らではないから彫るのは難しいが、それがいい」と表情をほころばせる樋口さん。その石の積層によってきめの細やかさや、時には化石が入っていたりなど1つとして同じものはないといいます。「一期一会の石に出会えるのも、掘り上げるのも、とても面白い。だからどんな欠片も勿体無くてね、どんどん工房に積み上がってっちゃう」と笑います。

硯を彫るということは“石を見る”ということ

「硯という字は、“石を見る”と書きますが、それは原石を削り出す前に、どこから削るといいか石を見極めることからこの字になったんです」と樋口さん。積み重ねた経験から、石をひと目見ただけでその硬さが分かるといいます。

この石は石巻市「波板」という地域の石で、雄勝石の中でも硬い石だそう。これら1つひとつの岩肌の表情や硬さ・性質を見極めながら彫っていく、まさに職人の生きた経験と知識のなせる技です。今回の取材では、実際に雄勝硯を彫るシーンの一端を見せていただきました。

表情を見て“顔”を決めた雄勝石にのみを当てる印を付けます。

印に沿ってのみを入れていきます。直線・曲線それぞれに神経を使いながら慎重に、けれども大胆に彫っていきます。1つとして同じもののない天然の石だからこそ、注意して彫り進めていても想定外のところで石が欠ける場合もあるそう。

少し彫り進めては角度を変えて確認。完成までこれを繰り返し、微調整。「この石は仕上げたらとてもいいものになるなぁ」と思わずにんまりする樋口さん。

石を削る道具は角のみ、丸のみの2種類のみととてもシンプル。あとはその大きさの違いでそれぞれサイズの異なる製品を彫り上げていきます。圧力がかかりやすい、石に当たる面積の小さい方を好んで使用するそうです。

のみ柄を肩に当て、体全体で彫り進めます。全て手作業で仕上げていく中で、自分のイメージした通りに彫れた時の達成感はひとしおだそう。

樋口さんお気に入りの硯も1つ見せていただきました。この硯は雄勝の海の底の石を使ったものだそう。漆を塗って艶のある仕上げになっています。こちらは、あえて1箇所だけ岩肌の質感を残し彫り上げています。「どれも同じ仕上げでは面白くないですから、石を見て彫るイメージをして、彫り進めながら岩肌の質感などを見てイメージをブラッシュアップしていきます。だから完成してみたら、最初想像していたものから変わっていた、ということもよくあります」と樋口さん。

「この石も、その石も、綺麗なんだよなぁ」樋口さんの口からぽろりとこぼれたこの言葉に、雄勝石や硯作りに対する想いがギュッと凝縮されているように感じました。キラキラと輝く瞳からも、硯作りが大好きなことが伝わってきます。

樋口さんの経験と技が詰まった宝石のような手。宝物のような存在です。

採石から仕上げ 商品ができるまで

雄勝硯や雄勝石から作られる製品の数々は、たくさんの工程と人の手を経て仕上げられます。その流れは大きく分けて6つあります。

①採石:露天堀により、重機などを用いて原石を採石。
②切断:選別された良質の原石を、製品の大きさ・厚さ・形を考え切断。
③砂すり:切断した原石を円盤状の回転すり盤機の上に乗せ、そこに川砂と水を流し込み、表面のの凹凸を削りなめらかに加工。
④彫り・成型:縁立て、荒彫り、仕上げ彫りの3段階に分けて、のみを肩に当て体全体で掘り上げていきます。形を整え原石を、硯、食器、クラフト品に加工します。
⑤磨き:成型した石を、中磨き、外磨き、仕上げ磨きの3段階に分けて砥石、耐水ペーパーを使用し丁寧に磨きます。
⑥仕上げ:漆を使用したつや出し仕上げ・焼き仕上げ、墨を使った墨引き上げの伝統的な技法により仕上げていきます。石皿には食品衛生上安全な塗装を施します。

こうして天然石の硯や天然共蓋付硯、多目的プレートなどの石皿、カトラリーレストなどのクラフト製品が生まれます。

「唯一の雄勝硯職人となった今、若手に少しずつ技を引き継いでいます。昔は何年も修行して、それから彫りを学ぶという流れでした。父にも、当時は師匠にのみ柄で頭を叩かれながら技を覚えたとよく聞かされていましたが、これからの後継者育成は今までよりも柔軟な対応が必要だと思います」と樋口さん。雄勝硯の歴史や技を繋ぐ未来を見据えながら、今日も石との対話の中から生きた作品を生み出し続けています。

▶︎ 次回【4th day】では、職人技で生まれた逸品と購入場所、雄勝硯・雄勝石の進化の可能性をお届けします。

雄勝硯生産販売協同組合
Tel.0225-57-2632

宮城県石巻市雄勝町上雄勝2丁目25

●営業時間/9:00〜17:00

●定休日/毎週火曜

●ホームページ/http://ogatsu-suzuri.jp

●ネットショップ/https://ogatsusuzuri.thebase.in

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