「ほしい!」を見つける ずっと愛せる東北。vol.3-1

「ほしい!」を見つけるずっと愛せる東北。とは

東北の「ホンモノ、逸品」を題材にした特集。
商品やお店、職人の背景やストーリー、想いを中心に取材し、
こだわりのモノとコトを紹介。

ホンモノはずっと長く使えて、愛せるもの。
想いはよりモノを輝かせてくれるもの。
私たちの東北のキラキラをもっと知って、もっと好きになってほしい。
そして、ずっと手元に置いておきたい愛せるモノを見つけてほしい。
“ずっと愛せる東北。”はそんな想いを込めた特集です。

vol.3-1 樺細工 冨岡商店 冨岡浩樹さん
使い続ける中に生まれる豊かさ
使うほど味わいを増す“1点もの”との出会い

山桜の樹皮から生まれる上品な輝きを放つ樺細工。とても繊細なイメージのある樺細工は、そのデザイン性だけではなく、機能性・耐久性にも優れた暮らしの道具です。しっとりと手になじみ、使えば使うほど味わいを増す樺細工は、どれもが1つとして同じ物のない1点物。今回は秋田県仙北市にある有限会社冨岡商店 代表取締役の冨岡浩樹さんに、国指定伝統的工芸品 樺細工の魅力と味わい方をお聞きしました。普段使いできる伝統校的工芸品に胸が踊ります。(2020年4月20日公開)※取材は3月中に実施したものです。

文・写真:kumiki 小野 千怜

Contents

【1st day】これも樺細工!?アート&クラフト 香月で見つけた樺細工にドキドキ
【2nd day】自然と共存する樺細工の魅力
【3rd day】暮らしに寄り添う、樺細工たちとお手入れ方法
【4th day】全てが1点物。職人技で作り出される樺細工たち

【1st day】これも樺細工!?アート&クラフト 香月で見つけた樺細工にドキドキ
使い続ける中にこそ生まれる
暮らしの豊かさと味わい深さ

秋田県で初めて国指定伝統的工芸品に登録された「樺細工」。その歴史は長く、18世紀末に秋田県角館に技法が伝えられたのが始まりとされています。山桜の樹皮を用いて作られる樺細工は、その上品な艶と質感から多くの人々に愛され続けています。今回は創業50周年を迎える冨岡商店の樺細工にスポットライトを当て、その魅力に出会えるスポット、樺細工の魅力や出来上がるまでのストーリーを、4日間に分けてご紹介します!

独特な艶やかな質感・深みのある色合い・模様が特徴の樺細工は、茶筒が最もポピュラーな形です。一度はどこかで見たことがある、または家族が使っていたという方も多いのではないでしょうか。特別感や高級感がありながらも、それぞれの生活シーンに自然と溶け込むような不思議な存在感のある樺細工は、ここ秋田県角館が世界で唯一の産地です。

その美しさから、芸術品のような繊細なイメージを持ちがちな樺細工ですが、実は飾っておくのではなく毎日の暮らしの中でたくさん使ってあげることが、長持ちのポイントです、と冨岡商店 代表取締役の冨岡さん。「使えば使うほど経年変化により艶感が増して、長持ちするようになるんですよ」と話します。

樺細工に用いられる山桜の樹皮は美しい色艶や模様だけではなく、その丈夫さも特徴の1つです。過去には筆・刀の鞘などにも用いられてきた他、藩政期には印籠や眼鏡入れにも使われていたのだとか。さらに振り返ると縄文時代前期には「巻き紐」として重宝されていたという記録もある程。
この性質を活かし、冨岡さんは既存の形にとらわれない柔軟な発想で、日々新しい樺細工の可能性を模索しながらものづくりを行なっています。「山桜の樹皮は、横には裂けやすく縦は裂けにくくかかる力に強いという性質があります。歴史にも残っているように、1万5〜6千年前のものが今に残る程強靭な素材であることも魅力の1つです。大切に使い続けることで一生付き合える道具となり職人さんが続く限り修理をして使えるので、一緒に時を刻む楽しみがありますね」と話します。

そんな樺細工の伝統的な茶筒はもちろん、ユニークなデザインやハッとするようなアイディア商品がずらりと並ぶ、素敵なスポットをご紹介します。「これも樺細工!?」と胸が躍ること間違いなしです。

胸が躍る、多種多様な樺細工を発見
樺細工工芸ギャラリー 直営店アート&クラフト 香月

秋田県仙北市角館の武家屋敷通りにある樺細工工芸ギャラリー 直営店「アート&クラフト 香月」は、2005年に本店移転と共に併設されたセレクトショップです。お店の名前の由来は、桜に月の幽玄な様を表す「香月」から。「日本人が昔から持っている普遍的な美意識・その文化を角館から発信したい」との想いから始まりました。

(写真:Adobe)※写真は過去のものです

アート&クラフト 香月がある角館は江戸時代に栄えた城下町で「みちのくの小京都」とも呼ばれています。一帯には多くの武家屋敷をはじめ、古くからの風情ある街並みが続く観光名所でもあり、武家屋敷群の表通りは国の重要伝統的建造物群保存地区として保護されています。特に桜の名所としても有名で、約400本のシダレザクラが並ぶ様子は圧巻。武家屋敷の黒塀に映える様はなんとも美しいです。

(写真:Adobe)※写真は過去のものです

長い歴史を表すような大木たちがどっしりと根を張り、大きく枝葉を伸ばす様子は1年を通して豊かな表情を見せてくれます。

(写真:Adobe)※写真は過去のものです

通りにはお土産屋さんやカフェ、資料館など、五感で楽しめるスポットがたくさんあり、その内の1つにアート&クラフト香月があります。

武家屋敷の通りの赤いポストを目印に、道路挟んで向かい側の小道を入った先に赤い看板が見えてきます。

着きました!とても雰囲気のある建物です。元々は樺細工の産地問屋があったというこの場所。そこで勤めていた冨岡さんのお父様が土地を譲り受け、1970年に創業、2005年に新しく更地から建て直し本店を移転し現在に至るそう。ワクワクしながらさっそく中へ。

白を基調とした店内には、そのどれもが“1点もの”である、伝統的なデザインの樺細工や見たこともないようなモダンでユニークなデザインのもの、その他、秋田県の国指定伝統的工芸品「大館曲げわっぱ」「川連漆器」なども並んでいます。
樺細工を中心に様々なクラフト全般に置いても、暮らしの道具を使い続けることで得られる豊かさをそっと教えてくれるような、心がぽかぽかする空間です。

数々の樺細工の他にも、冨岡さんの琴線に触れた魅力的な作品が並びます。「ここには各地から集め選りすぐった、自分がいいなぁと思ったものを並べていますね。地元の魅力が発信できるよう、北東北のものを中心に百貨店などではあまり見かけないものも取り揃えています。また、樺細工の職人さんにもいいものを見てもらいたいという気持ちもあります。今では数え切れない程の点数が並んでいますね」と笑顔がこぼれます。

カトラリー類やインテリア・文具小物、定番の茶筒もユニークなデザインのものなど多種多様な樺細工が並び、直営店ならではの種類の豊富さに好奇心を刺激されます。サイズも手の平に収まるものから、テーブルなどの大きなものまで幅広く、伝統工芸品の職人の技が活きる洗練された品々に、ワクワクが止まりません。

毎年登場するという新作や、美濃焼きなどの異素材のものとのコラボ商品など、進化し続ける樺細工。この場がきっかけとなり作家同士の出会いから、また新しいアイディアが生まれるなど、樺細工の持つ可能性に目が離せません。

その他、様々な作家の色とりどりの和雑貨も見逃せません。どれも暮らしをもう一歩豊かにしてくれるようなアイテムばかりです。

そしてぜひチェックして見ていただきたいのが「館内の樺細工探し」。アート&クラフト香月は、店頭に並ぶ商品だけではなく建物自体を見渡すとあちこちに樺細工が施されているのを見つけることができます。例えばこの天井をよく見ると…。

ありました!ナチュラルに溶け込みながらもキラリと存在感のある縦に走るラインが樺細工でできています。よく見るとシーリングカバーにも用いられています。「あ!こんなところにも樺細工がアクセントになっているんだ」という気持ちで巡るのも楽しいので、お店に来た方はぜひ目を光らせてみてください。

アート&クラフト 香月はJR角館駅より徒歩約20分のところにあります。時の流れがゆったりと優雅に流れる武家屋敷通りの、四季折々の情景や色々なお店を満喫しつつ、角館から全国そして世界へ発信され続けている伝統的工芸品樺細工を身近に感じてみてはいかがでしょうか。東北が、また1つ好きになること間違いなしです。

▶︎次回公開の【2nd day】では自然と共存する樺細工の魅力をお届けします。

有限会社冨岡商店 営業本部・工場
Tel.0187-56-3239

秋田県大仙市上鴬野字熊野71-3

アート&クラフト香月(有限会社冨岡商店本店併設)
Tel.0187-54-1565

秋田県仙北市角館町東勝楽丁2-2

●アクセス/JR角館駅より徒歩20分

●営業時間/9:00〜17:00

定休日/8月13日、他年末年始

●ホームページ(冨岡商店)/https://tomioka-shoten.co.jp

●ホームページ(アート&クラフト香月)/http://ac-kazuki.jp

●オンラインショップ/https://tomioka-shoten.com

●Instagram/@to.mioka.shoten

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